天窓のある納戸での撮影、その三回目。
小さなビスクドールでは出来たことが、あれこれ上手くいかない。
このシリーズは、ひとまず、これを最後にするつもりだ。
雨模様の日が何日か続いているのもよろしくない。
(続き)
天窓の下の、どの位置に持ってくるかが難しい。
他の窓を布で蔽っていても、部屋の中はまだ明る過ぎて、
スポットライトのような光にはならない。
等身大ドールを床に寝かせての撮影だから、奥行きに欠けるのも
何だかつまらなく感じてしまう。
A級メイクが施されたヘッドと
これまで通りのボディとの質感の違いが、今回は特に気になった。
人肌に似せた仕上げオプションを用意しているメーカーもあるようだが、
arte には今のところ無いというのが分かった。
散々、不満を並べてしまったが、
撮影中は、ご覧の通りで、好き勝手なことを考えて愉しんでいた。
エヴァの青いスカートに W.H.Hodgson の "The Night Land" 。
明るい部屋の中に、わざわざ暗がりを作ろうとしていたからなのか、
撮影の後、"The Night Land" の最初の2章ほどを読み返してみた。
隣り合った領地に暮らす中世イギリスの男女が、
同じような夢の記憶を共有していたことを知って驚く場面が印象に残った。
若妻の死によって終わる短い結婚生活の後、
暗黒の超未来に転生して、彼らが再び出逢うことになるという大まかな筋や
And I cannot touch her face で始まり
And I answer with vain callings …で終わる冒頭の詩のようなもの。
頭に残っていたのは、そんなことぐらいで、
最初から二人に、そんな不可思議な設定がなされていたことに
一読した学生の頃は気づかずにいた。
或いは読んでいても、今回のようには印象に残らなかったのだろうか。
逢いたいと考える人を求めて、50年近く前の記憶を辿るしかない私だが、
19世紀末の、この愛すべきマイナーな英国人作家は、
過去の思い出に浸るのではなく、
暗黒に閉ざされた終末期の未来世界に転生する物語を創り上げている。
闇の向こうの遥か彼方。
ピラミッド状のシェルター都市の中で
魔物に包囲されて明日をも知れぬ嘗ての妻。
その存在を知ることになった男の気持ちが
痛いほど分かるような気がする。
その理解が何に由来するのか
自分でもよくは分からないのだが。