彼女にも新しい半袖ワンピースを。
濃色のものでもクッションドールには基本的に色移りの心配はなく、
ティエラドールであるから肩の縫い目さえ注意しておけば
二の腕が多少見えても大丈夫だと思っている。
(続き)
それでも、完成して4年が過ぎたドール。
経年の跡は、そこかしこに認められる。
仕方がないと言えば、仕方がないし、いろんなことを思い出しながら
現状を呑み込み、諦めるより他はない。
若い女性アイドルを追いかけていて、
いつの間にか時間が過ぎていたことに気づいて愕然とする_
そんな感じとどこか似かよっている。
紫を選んだのも同じような気持ちが働いたからなのか。
儚い夢の切なさ、美しさ。
そんな雰囲気に魅せられているのに、
どこかでそれが永続することを願っているような節がある。
同じグループであっても、名前が売れて大きくなり
メンバーも移り変わっていくのに、
いつまでも昔の雰囲気を求めるのは間違っている。
頭では分かっていても、失うことを前提とした美しさを求めている限り、
現状への違和感が残ることになる。
近所から本屋がなくなってしまった。
ある程度大きな駅ビルの中にあっても
商売として成り立たなくなっているのだろう。
親元を出て20代を過ごした下町の小さな本屋を思い出す。
古い市場の入口近くにあって、夕食後の時間帯でも開いていたから
散歩がてらに立ち寄ることができた。
懐旧の思いに流されながら、そこで何を買い求めたか考え始めたが
思い出せない。
それでも同じ頃の冷夏の夏、日本海側の町を旅した時、
小さな商店街の書店で「赤方偏移の仮面」と雑誌「POPEYE」を買って、
旅館に帰ったことは覚えている。
この八月に閉めることを告知する張り紙のあった駅ビルの本屋。
そこで買った一番最近の本は、
何冊かの森見登美彦の文庫本だった。
少しずつ本棚がなくなり、
文具と小物雑貨のスペースが大きくなっていくのは、
町の本屋の
末期の姿だと分かるようになった。