"Iris: Return on a rainy day" と同じ日の撮影。
雨の日の日没がすぐ間近に迫っていた。
(続き)
最初の撮影を終えてから、二度目の撮影までの間、
一旦ブラウスを取り去って、ストッキングや上下の下着を着せている。
お気に入りの milky ange のスカート:由香莉を穿かせてやり、
自作スタンドにセットして、ヘッドを載せる。
布と綿のボディにシリコンのヘッドを載せただけの物体が、
衣服や履物をプラスすることで、一人の女性として目の前に現れる。
その瞬間の、或る種の驚きは、ドールオーナーなら分かるのではないか。
一度目の撮影の、素肌にブラウスの状態に比べ、
ハイウエストのスカートでの立ち姿は、きちんと下着を着けているからか、
キリっと引き締まった感じがする。
随分昔に、こんな感じの詩人の肖像画を見た気がする。
放浪の若い詩人。
そんな手懸りから、中村彝の「エロシェンコ氏の像」へ辿り着いた。
記憶の中の絵とは向きが違うし、色も青が主体だった気がするのだが、
盲目のロシア人、エスぺランティストという略歴は、甚だ魅力的だ。
現代にも、多くの人々のミューズになるような
知的な好奇心を掻き立てる若い人が、どこかに存在しているのだろう。
私の記憶の中の肖像画と重ならない部分は多いのに、
「エロシェンコ氏の像」を暫く眺めていた。
異国の盲目の青年の姿に、遥かな理想を見ていた人々。
その時代の、そんな人たちに無性に会ってみたくなった。
自分でも説明しがたいような
感傷的な思いが溢れてくる。